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今回は娘さんからお母さんへの思いを綴ったお話をご紹介します。

『いってきます』

もう２０年位前の話になります。小さい時、私は親に離婚されて、どっちの親も私を引き取ろうとせず、施設に預けられ、育てられました。　そして３歳くらいの時に、今の親にもらわれたそうです。当時の私は当然自覚などしておらず、記憶はなく、その親を本当の親と思って、中学２年まで過ごしてきました。そして突然の父との別れが訪れました。脳梗塞で帰らぬ人になりました。

そして、その最悪の時に、私とその親は家族でない、ということを親戚の方から偶然にも知ってしまったのです。

葬儀の後、私は母を問い詰め、本当のことを聞きました。その時を境に、私は母を嫌いになりました。死んだ父でさえも嫌いになりました。多分、裏切られたとか思ったんでしょう。　　　　　　　　　

元々裕福な家ではありませんでしたから、父が死んでからは母が働きに出ざるを得ませんでした。母は朝は近くの市場で、昼からは夜にかけてスーパーで働きました。それもこれも全て私のためのものでした。ですが、当時の私にはそれすらもうっとうしく思えてなりませんでした。

時には、登校の時間が、母が市場から帰ってくる時間と重なってしまい、友達と登校していた私は、疲れてボロボロになった母と家族であるということを友達に知られたくなく、「いってらっしゃい」と言う母を無視して、友達に「誰あれ、気持ち悪いんだけど」という悪口さえ言っていたものでした。

それを察してか、次の日にはわざと目を伏せ、足早に私とすれ違っていきました。

でもそれでも母は、私に何一つ文句を言わず、働いてくれていました。そんな日が一ヶ月ぐらい続いたと記憶しています。そんなある雨の日、雨合羽を着て市場から帰ってくる母とすれ違いました。当然無言です。

その姿はなんとも寂しく、哀しく、辛そうに見えたのです。

涙が溢れました。ぐしゃぐしゃに泣きました。私は一体何をしているのか。

ボロボロになってまで私を育ててくれているあの人に、私は何をうっとうしく思っているのかと、凄まじい後悔が私を襲いました。私は友達の目も気にせず、母に駆け寄りました。でも何を言っていいか分かりませんでした。

その時、ふと口をついた言葉が「いってきます」でした。言えた言葉はたったそれだけでした。

でも母は一瞬驚き、そして泣きました。そして何度も何度も「いってらっしゃ」と言ってくれました。私が友達の元へ戻った後も、母は私を見ながら手を振って、「いってらっしゃい」と言ってくれていました。

今では、彼女こそが本当の私の母親です。たとえ戸籍上はどうあれ、そう思っています。　　　　

恩は返しきれないくらいあります。

母は「それが親の勤めだよ」と言いますが、でも、じゃあ今度は子として、親の面倒を見ていきたいです。

この人が母親で、最高に良かったと思います。

たとえ血がつながっていなくても、こんなにも深く思いやれる親子の関係があるのですね。　　　　　　　　　　　　

お父さんが亡くなられた後、女手ひとつで子どもを育て、生活を立てていくことは本当に大変だったと思います。　　　

でもこのお嬢さんが側におられたからこそ、お母さんも頑張れたのでしょう。

親が子を思う時、愛する人を思う時、底知れない力が生まれるのですね。